温泉の前に、少しだけ紅葉の話を。

奥多摩駅から小河内ダムに向かい、更に奥。丹波山村に向けて車を走らせると、左手に雄大な山々を拝むことができる。走りながら撮った風景だから画像の繊細さは無い。こんなにも山が色づいたのを目近に見たのは、初めてだった。

大学時代住んでいた京都の街は、ここ奥多摩と同じく11月に観光のピークを迎える。碁盤の目のなかに住む住人にとって、あらゆる交通機関が人で溢れかえる紅葉の季節は桜の時期と同じくらい、過ごしにくい時期であった。東山や、嵐山、それに寺社の紅葉が心を撲つものだと知ってはいたが、遠くに見えるそれらの山々を、ちょっとした優越感と物憂いと共に部屋から眺めるだけで満足する自分がいた。

遠くに眺めるくらいが心地よい自分にとって、迫りくる奥多摩の風景は<毒>なのだ。つい先日まで深緑色に統一されていた主張なき風景が、これでもかとアピールする。やめてくれ、それ以上近づかないでくれと拒絶する気持ちが脳のどこかに滞留する。目のやり場にこまるくらいに鮮やかで、車窓からは遠近感を持って流れ続ける山々に、妙な立体感を感じるのだった。「あなたは美しい」ーそんな褒め言葉をかけ続けなければならないことにいささか疲れてしまう。まるで、若い美女ばかりを眺めているような。

カメラを山に向ける単身男性をちらほら見かける。この景色は一人で眺めるのが良いかもしれない。

そう思った直後に、紅葉を若い美女に例えることはあまり相応しい表現とは言えないのでは、とひとりごちた。

紅葉の1枚1枚は、今年、葉としての役割を終えようとしている言わば「老人」なのである。雨風に傷つき、気温の低さに葉緑素が破壊され、本来の葉色である黄や赤を表出させるのだ。半分、死んでいる。死ぬ直前に、鮮やかな輝きを放つのだ。若年というよりは老年になって紅葉を見に行く人が多いのは(「多い」はあくまで主観だが)、彼らが死期の近づきを遠回しに意識し、それまでの人生をオーバーラップさせているからでは、と見上げながら思った。不謹慎な想像だが、あながち間違いでもないだろう。

まるで緻密な筆触分割で描いたような風景は、小河内ダムからほど近いお食事処、丹下堂(たんげどう)の店前から景色だ。印象派の画家がいたらきっとこの位置から描いたであろう、というベストポジションにその店はある。

店の少ない小河内地区においては貴重な飲食店である。

あまり知られていないが、丹下堂は単なる「飲食店」にあらず。奥多摩でとれた鹿肉を食することが出来る、ジビエ料理店でもある。

そして、丹下堂は単なる「ジビエ料理店」にあらず。なんと日帰り温泉施設が付随している。

奥多摩の名湯「鶴の湯」を使った日帰り温泉に入ることができる、ジビエ料理店なのだ。(温泉は毎日入れるわけではないので、事前に電話確認したほうが良い)

店内、入り口から対角線の奥にある「鶴の湯温泉」の扉。正直、気づかないかもしれない。

都内では飲食施設付きのスーパー銭湯をよく見かけるが、丹下堂の場合、温泉付きの飲食店、と呼ぶのがふさわしい。

飲食店の影に隠れた湯を、ちらっと、覗いてみたい。今日はそんな鶴の湯温泉に入ってみた話。

前置きが長くなりました。

「鶴の湯温泉」って知ってます?

ここまで詠嘆調?のもの悲しい文体で書いてみましたが、温泉紹介するのにしみじみ書いてもアレなので、ここからは普通に書いちゃいますね。

奥多摩から山梨方面に続く青梅街道を走っていると、「鶴の湯温泉」と書かれたタンクローリーをたまに見かけます。

実は、奥多摩の小河内地区(ダムのまわり)に源泉があって、それが「鶴の湯温泉」の正体。

鶴の湯温泉、という名前の温泉屋はない?

有馬温泉、別府温泉と同じように、鶴の湯温泉、というのは源泉の名前、もしくはそのお湯を利用している温泉の総称で、「鶴の湯温泉」という場所は存在しません。

もともと鶴の湯の源泉は、人工湖である小河内ダムの湖底深くにありました。ダム竣工時に温泉は水没しましたが、源泉を汲み上げるポンプを設置。1991年(平成3年)にポンプを使って汲み上げ、それをタンクローリーで各旅館に配湯することで温泉を蘇らせたのです。鶴の湯の源泉を使っている場所のことを「鶴の湯温泉」と呼んでいることが多いみたいです。

今でも1分間に370リットルもの湯量を誇る鶴の湯ですが、水没する前は、48度のお湯が湧き出し、源泉かけ流しとして丁度よい温度だったそうです。今の泉温は30度なので掛け流しは難しいかもしれません。

「小河内鶴の湯温泉の由来」なる紙が脱衣所に貼ってありましたので撮影。(特別な許可を得て撮影しています)

 

何が書いてあるか簡単にまとめますと、

昔、小河内ダムが出来る前は、湖底に宿場町があって、そこでは温泉が湧き出していて、湯治客が癒やしを求めて訪れていた。

鶴の湯の名前は、矢傷を受けたツルが温泉に身を浸したところ回復し飛び去ったため、「効能スゲー」となり、鶴の湯と命名することにした。

鶴の湯は1600年代から名を馳せており、国内の温泉場の中でもトップクラスである、と偉い人が言っていたらしい。温泉の賑わいは長く続き、昭和の頃には8軒の旅館があったとのこと。

温泉研究所の偉い人も、「東京近在にある温泉の中で第一位」とのお墨付きを与えてくれてる、とのこと。

一言で言えば

「鶴の湯、泉質マジでいいから。嘘じゃないって!すごくいい!」

みたいなことが書いてあります。

泉質はどんな感じ?

記載の通り、「アルカリ性単純硫黄泉 PH10」ということで、かなりアルカリ性が強いみたいです。適応症の幅も広いですが、筋肉痛や冷え性に効くのはギリギリ20代の自分にとっても恩恵のある、ありがたいお話。

とりあえず、入ってみる。

さっきの「鶴の湯温泉」扉をあけると、温泉まではすぐそこ、5m程度です。

風呂場はこじんまりとした感じ。6〜7人は余裕で入れる大きさですかね。

風呂場に入ると、若干硫黄の香りがします。硫黄泉なので当然と言えば当然なのですが…。金銀などの貴金属類は、入る前に一応外しておいたほうがよいと思います。硫化水素泉ではないので黒く変色することはないと思いますが、念の為。

とにかく、あったかい。

水温は40度、熱いのが苦手な人でも入れちゃうくらいの温度設定。ついつい長風呂したくなりますが、鶴の湯の特徴は、「体が温まりすぎるくらい温まってしまうこと」。10分も肩まで浸かっていると、もう熱くて熱くて…。血流がよくなるのは硫黄泉の特徴なのだとか。

風呂縁に腰掛けて冷ましてまた入って、を繰り返して30分くらい居ました。もう体がほっかほか。この日は外気温10度くらいでしたが、長袖シャツ1枚で「夕涼み」が丁度よく感じるくらいでした。

すべすべ度、高し。

かなりのアルカリ性、というのもあって、すべすべします。かかとのザラザラとかに効いてるのかな?

日本で最も強アルカリ性の温泉はPH11.3程度(PH7を中性として数字が大きければ大きいほどアルカリ性が強い)らしく、PH10の鶴の湯もかなりの強アルカリ性だと言えるでしょう。

入ってみてどうだった?総評。

鶴の湯がかつて関東屈指の泉質を誇る温泉郷だったのも頷ける、質の高さ。温泉自体はとても良いものだと思います。

ただ残念なのは、丹下堂さん、お風呂場から景色が見えないんですよね。すぐ隣に小河内ダムと紅葉が広がっているのですが、そちら側に窓はなし。

防犯上仕方ないとはいえ、勿体無いなーって思いました。

そのかわり…と言ってはなんですが、温泉の隣に併設されている休憩室からは小河内ダムが望めます。

眼の前に湖が広がってる空間で休憩がとれます。都内の温泉レストスペースでこんな景色を拝むことはまずないでしょう。棚のこけしが渋い笑

風呂上がりに、ご飯も食べられるよ。

丹下堂さんの営業時間は10時〜19時。早めの時間帯に温泉につかれば、夕方に軽く一杯、なんてこともできちゃいます。

上にもちらっと書きましたが、奥多摩でとれた鹿肉をつかったジビエ焼き肉も食すことが出来ます(鹿肉が無い可能性もあるので要注意)ので、気になる方は是非食べてみてくださいね。

奥多摩は、ジビエの鹿肉と、奥多摩ヤマメ、町のキャラクターにもなっているワサビの3つが食材として有名です。ヤマメを使った定食もありますよ〜。

実は…鶴の湯温泉にはテーマソングがある

せっかくここまで読んでいただいた皆さんに、「鶴の湯」についてもう少しだけ詳しくなれる、ダメ押し情報を一つ。

地元の有志団体、OBC(小河内バンバンカンパニー)の方々が「鶴の湯温泉のテーマ」という曲を作曲されており、これがなかなかの名曲。歌詞もさることながら、メロディーラインが美しく癖になる音楽です。

それでは振り付け動画をどうぞ笑

歌詞をweb上で探しても見つからなかったので、下に書き出してみますね。間違っているところはご容赦くださいませ。
歌詞:鶴の湯温泉のテーマ♪
鶴の湯 鶴の湯 奇跡の湯
鶴の湯 鶴の湯 奇跡の湯
昔々のお話 怪我をしたツルが居たのさ
崖から出る温泉に浸かって 傷を癒やして飛び立ったのさ
ツルツルーツルツルー 鶴の湯に行きたいな
ツルツルーツルツルー 鶴の湯入りたいな
600年以上前からある 歴史の長い温泉なんだってさ
湖の底に沈んじゃった 幻の湯
ツルツルーツルツルー 鶴の湯に行きたいな
ツルツルーツルツルー 鶴の湯入りたいな
おくたまーおくたまー 奥多摩の名湯
ツルツルーツルツルー 鶴の湯FOREVER
奇跡の湯 奇跡の湯 奇跡の湯
らららーららーらーららーらーらーらーらー(奇跡の湯ったら奇跡の湯)
ツルツルーツルツルー 鶴の湯に行きたいな
ツルツルーツルツルー 鶴の湯入りたいな
湖の底から組み上げ まさかの復活 奇跡の湯
奥多摩に来れば入れるよ 小河内が誇る奇跡の湯

ツルツルーツルツルー 鶴の湯に行きたいな
ツルツルーツルツルー 鶴の湯入りたいな
おくたまーおくたまー 奥多摩の名湯
ツルツルーツルツルー 鶴の湯FOREVER

鶴の湯 鶴の湯 奇跡の湯
鶴の湯 鶴の湯 奇跡の湯
鶴の湯 鶴の湯 奇跡の湯
鶴の湯 鶴の湯 奇跡の湯

聴いて、いかがでしたか?

お子さんがいる方は一緒に、パートナーがいる方は2人で、単身の方はお一人で気兼ねなく、踊ってみてください。奥多摩に来たくなるはずです。きっと。

記事が長くなってしまったのでこのへんで。ではまたー!

 

・丹下堂さんへのアクセス

★公共交通機関
奥多摩駅からバスで1本。約20分程乗車、倉戸口バス停から徒歩1分。

★自動車・バイク・自転車
青梅街道を奥多摩駅前から山梨方面にひたすら一本。「奥多摩 水と緑のふれあい館」「大麦代駐車場」を超え、熱海トンネルを抜けて直ぐの場所にあります。駐車場はありますが10台程と限られているため、桜・紅葉シーズンは店前に停められない可能性もあります。特に自動車でいらっしゃる際はご注意ください。

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